解説 相続

遺産の使い込み。
「預金が減っている」と「使い込まれた」は、別の問題。

執筆:弁護士 杉山弘剛(福岡県弁護士会)

親が亡くなった後に通帳を見ると、多額の引出しが続いていた。管理していた兄弟に聞いても、はっきりした説明がない。相続では、こうした「使途不明金」をめぐる争いがよく起きます。

ただし、預金が減っていることと、誰かがそのお金を自分のものにしたことは、別の問題です。親の生活費や医療費、介護費に使われていることもあります。このページでは、通帳や記録から事実を明らかにしていく方法を説明します。

まず取引履歴を取り寄せる

出発点は、亡くなった方の預金口座の取引履歴です。相続人は、他の相続人の同意がなくても、金融機関に取引履歴の開示を求めることができます。

取り寄せられる期間は金融機関によって異なりますが、一般に過去10年分程度です。古い記録ほど手に入りにくくなるため、疑問があれば早めに取り寄せることが大切です。

履歴を見るときは、金額だけでなく、引出しの日時、場所(窓口かATMか、どの店舗か)、間隔、振込先も確認します。入院中に自宅近くのATMで引き出されているといった事情は、誰が引き出したかを考える手がかりになります。

使い込みかどうかを分けるポイント

引出しが問題になるとき、主に次の点が争点になります。

誰が引き出したのか
本人が自分で引き出したのか、家族が代わりに引き出したのか
本人の意思に基づくのか
本人に頼まれたものか、当時の本人に判断能力があったか
何に使われたのか
本人の生活費・医療費・介護費・家の修繕費などか、引き出した人のための支出か
本人からの贈与だったのか
贈与であれば、使い込みではなく「特別受益」として遺産分割で考慮されることがあります

預金を管理していた家族にとっては、何年も前の支出を一つずつ説明するのは簡単ではありません。領収書や家計簿、介護・医療の記録など、支出を裏付ける資料をできるだけ集めることが重要です。

通帳の記録は、意外に多くを語る

引出しの記録を時系列に並べると、それだけで見えてくることがあります。たとえば、次のようなことです。

  • 入院した日を境に、引出しの回数や金額が急に増えている
  • 本人が入院や入所をしていた時期に、家族の自宅や勤務先の近くのATMで引き出されている
  • ATMの1日の上限額いっぱいの引出しが、何日も続いている
  • 亡くなった後も、引出しが続いている
  • 引き出された額が、施設の利用料や医療費と釣り合わない

一つひとつは小さな事実でも、重ね合わせると、誰がどんな目的で引き出したのかという輪郭が浮かび上がってきます。反対に、施設の請求書や領収書と照らし合わせてみると、引出しの大半が本人のための支出だったと分かることもあります。

「亡くなる直前」に動いた財産

預金だけでなく、亡くなる直前に不動産の名義が変えられていたり、生命保険が解約されていたりすることもあります。

そのころ本人が重い病状にあったとすれば、その手続を本当に本人がしたのか。診療記録や介護記録で当時の状態を確かめ、登記の書類、委任状、印鑑、筆跡と照らし合わせていくと、手続の日付と本人の状態が合わないことが見つかる場合があります。

「何が本来の遺産なのか」が変われば、遺産の分け方そのものが変わります。

確認する資料

  • 亡くなった方の預金口座の取引履歴(複数の金融機関があればすべて)
  • 窓口での払戻しの場合は、払戻請求書の写し(筆跡の確認)
  • 診療記録、介護記録、入院の記録(当時の本人の状態)
  • 施設の利用料、医療費、公共料金などの領収書や請求書
  • 不動産の登記事項証明書、登記申請の書類
  • 生命保険の契約内容、解約の記録

解決事例

相続 CASE FILE 04

何十年も前の資金援助と、預金の使途をめぐる争い

遺留分をめぐる裁判で、依頼者が管理していた父の預金に多数の引出しがあることが問題にされました。父の生活費、介護関係費、修繕費などの支出を追い、引出しの意味を一つずつ検討。他の相続人が受けていた生前の資金援助も、通帳や振込記録、父の日記まで確認して立証し、裁判上の和解が成立しました。

相続 CASE FILE 06

亡くなる直前の名義変更と保険の解約

父が亡くなる直前に、不動産が贈与され、依頼者が受取人の生命保険が解約されていました。診療記録で父の状態を確認し、登記、委任状、印鑑、筆跡などと照らし合わせて訴訟で争い、名義変更を覆して登記を元に戻しました。そのうえで遺産分割を進め、解決しました。

過去の個別事例であり、同様の結果を保証するものではありません。

ご相談について

使途不明金の問題は、取引履歴を取り寄せて並べてみると、最初の印象とは違う事実が見えてくることがあります。手元の通帳や資料をお持ちいただければ、何を確かめるべきかから一緒に整理します。

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