解説 相続

相続と被相続人の債務。
引き継ぐのは、プラスの財産だけではない。

執筆:弁護士 杉山弘剛(福岡県弁護士会)

相続というと、預金や不動産をどう分けるかに目が向きがちです。しかし、亡くなった方の借金やローン、誰かの保証人になっていた責任も、相続によって引き継がれます。

また、相続人の中から「自分は親にお金を貸していた」という主張が出てくることもあります。このページでは、相続のときの「債務」について、確かめておきたい点を説明します。

借金は、相続人に分かれて引き継がれる

亡くなった方の借金は、相続が始まると同時に、各相続人が法定相続分に応じて引き継ぐのが原則です。たとえば、子ども二人が相続人で、借金が1,000万円あれば、それぞれ500万円ずつの支払い義務を負うことになります。

預金や不動産のように、話し合いで分け方を決める前に、借金はすでに分かれている、という点が大きな違いです。

「借金は長男が引き継ぐ」と決めても

遺産分割で「自宅を取得する長男が、住宅ローンも引き継ぐ」と決めることはよくあります。相続人の間では、その取り決めは有効です。

しかし、お金を貸した金融機関などに対しては、それだけでは通りません。金融機関の同意がなければ、他の相続人も、自分の相続分に応じた支払いを求められる可能性が残ります。引き継ぐ人を決めるときは、金融機関との関係まで確かめておくことが大切です。

借金を調べる手がかり

亡くなった方にどんな借金があったのか、家族も知らないということは珍しくありません。次のようなところに、手がかりが残っていることがあります。

  • 通帳の引き落とし(ローンの返済、カード会社への支払い)
  • 金融機関やカード会社から届く郵便物、督促状
  • 自宅などの不動産の登記(抵当権が設定されていないか)
  • 信用情報機関への開示請求(相続人から求められる場合があります)

信用情報機関には、銀行やカード会社、消費者金融などの借入れの情報が登録されています。ただし、個人からの借金や、次に説明する保証債務は、ここには載らないことが多いという点に注意が必要です。

見落としやすい保証債務

亡くなった方が、知人や親族、自分が経営していた会社の借金の連帯保証人になっていることがあります。保証人としての責任も、相続によって引き継がれます。

保証債務は、実際に支払いを求められるまで表に出ないことが多く、通帳にも痕跡が残りません。亡くなった方が会社を経営していた場合は、会社の借入れに個人保証が付いていないかを、特に注意して確かめる必要があります。

関連:相続と非上場株式・会社の財産

借金の方が多いとき

借金がプラスの財産を上回る場合には、相続を放棄することも考えられます。ただし、相続放棄には、原則として「相続があったことを知ってから3か月以内」という期限があります。また、遺産を使ったり処分したりすると、放棄ができなくなることがあります。

借金がありそうだと感じたら、遺産に手を付ける前に、まず財産と借金の全体を調べることが大切です。

相続放棄の期限と注意点

相続人から、亡くなった方にお金を貸していたと主張されることがある

相続人の一人から「自分は親にお金を貸していた。その分を遺産から返してほしい」という主張がされることがあります。実際に、亡くなった方の口座にその相続人からの入金が残っていることもあります。

しかし、「入金がある」ことと、「それが貸したお金である」ことは、別の問題です。親への援助や、生活費の負担として払われたお金であることもあります。貸したお金だったのかどうかは、主に次のような事情から検討されます。

  • 借用書など、貸し借りを示す書類があるか
  • 入金の時期、金額、続け方
  • その後、返済されたことがあるか
  • 当時の双方の経済状況
  • その後に、亡くなった方からその相続人へ、贈与などの形で財産が移っていないか

貸したお金だと認められれば、それは亡くなった方の借金として扱われます。そうでなければ、遺産から返すべきお金ではないことになります。どちらにしても、入金の記録だけでなく、その前後のお金の流れ全体を確かめることが出発点です。

確認する資料

  • 借入れの契約書、返済予定表、残高証明書
  • 亡くなった方の通帳、カードの利用明細
  • 信用情報機関の開示結果
  • 保証契約書(会社を経営していた場合は、会社の借入れの資料も)
  • 不動産の登記事項証明書
  • 相続人から貸したと主張されている場合は、双方の通帳や借用書

解決事例:「父に貸したお金がある」と主張された事件

相続 CASE FILE 02

父が生前に不動産を相続人の一人へ贈与しており、依頼者が遺留分を請求したところ、相手方から「父には長期間お金を貸していた」との主張がされました。入金の時期、金額、続け方、返済の有無、当時の双方の経済状況、その後の不動産の贈与などを確認し、貸金の主張、遺留分、不動産の評価を切り分けて交渉。裁判には進まず、相続をめぐって残されていた問題も含めて合意が成立しました。

過去の個別事例であり、同様の結果を保証するものではありません。

ご相談について

借金や保証は、調べなければ見えてこないことが多く、分かったときには期限が迫っていることもあります。手元の通帳や郵便物、契約書をお持ちいただければ、何を調べ、どう進めるかを一緒に整理します。

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