長期間婚姻している夫婦間で行った居住用不動産の贈与等の取扱の変更|相続法改正(2)

今回の相続法改正では配偶者の保護が強く打ち出されていますが、この改正はその一環です。

施行日

2019年7月1日に施行済みです。

改正前の取扱い

改正前は次のような枠組みになっていました。

特別受益

「民法第903条
1 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし…算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。」

この法律を簡単にいうと、相続財産の先渡しのような生前贈与や、相続財産の一部の遺贈を受けた相続人がいる場合、その財産を計算に入れて残りの相続財産を計算しなければならない(これを特別受益といいます)という意味合いです。

持戻免除の意思表示

そのいっぽうで、民法903条には下記のような条項がありました。

「3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。」

つまり、先ほどのような贈与でも、被相続人が「相続財産の計算に入れなくてもよい」という意思を表示すれば、基本的にそのような取扱いになることになっていました。

※ただし、「遺留分に関する規定に違反しない範囲内」であり、相続人の遺留分を侵害できるわけではない(具体的な算定方法につき最高裁第1小法廷平成24年1月26日判決参照)ことに注意が必要です。

上記の「相続財産の計算に入れなくてもよい」という意思表示を「持戻免除の意思表示」といいます。

この意思表示は黙示でもよいとされているため、本改正前はこのような意思表示があったかどうかの判断が難しく紛争になりがちであり、また場合によっては残された配偶者に酷な結果となるという問題がありました。

改正後の取扱い

改正後は、上記の大枠はそのままにして、 民法903条に下記の条項が追加されました。

(新旧対照表)

http://www.moj.go.jp/content/001253528.pdf

「4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。」

上記改正により、20年以上婚姻している夫婦の一方が他方に「居住の用に供する建物又はその敷地」を遺贈・贈与したときは、持戻免除の意思表示、すなわち「相続財産の計算に入れなくてもよい」という意思表示をしたものと推定されることになりました。

改正のポイント

本改正は、「特別受益-持戻免除」という大枠を修正するものではないこと、効力が「推定」にすぎないことなど、他の相続法改正に比べると地味な印象ですが、税制上の特例との関係で、実際には適用される場面が多く発生する可能性があります。

本改正が実際の案件に適用されるかを考えると、細かい点を詰めていく必要があります。

基準時

施行日前にされた遺贈または贈与については、本制度は適用されません(平成30年法律第72号による改正後の民法附則第4条。下記ページを「附則」で検索)。

http://www.moj.go.jp/content/001253488.pdf

同様に、遺贈または贈与がされたときに婚姻20年が経過していない場合も、適用がないと解されます(法制審議会民法(相続関係)部会第15回会議 議事録41~42ページ)。また「居住」しているかどうかの判定も、遺贈または贈与時となると考えられます(同)。

http://www.moj.go.jp/content/001231175.pdf

遺贈の時期

ここまで「遺贈時」といった表現をしてきましたが、その具体的なタイミングは、遺贈する旨の遺言がされたとき(民法964条参照)か、遺言者が死亡して遺贈の効力を生じた時(民法994条参照)のどちらでしょうか。

この点に関しては、遺言作成時と考えるのが自然で、上記議事録等でもこの考え方が前提とされていると思われます (前掲法制審議会民法(相続関係)部会第15回会議 議事録41~42ページ) 。

結婚と離婚を繰り返していた場合は?

例えば6年結婚して離婚し、その後同じ人と18年結婚した時点で贈与された場合に、最初の6年を算入して20年経過したものとして取り扱っていいのか?という点も問題になります。
この点に関しては、相続税法の取扱いと同様、通算で考える考え方が有力のようです(第196回国会法務委員会第19号田島政府参考人発言、小野瀬政府参考人発言)。

http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000419620180608019.htm