遺言執行者の権限の明確化|相続法改正(6)

相続法大改正のブログ記事、第6弾です。

施行日

2019年7月1日に施行済みです。
(平成30年法律第72号による改正後の民法附則第1条本文、平成30年11月21日政令316号)

http://www.moj.go.jp/content/001253488.pdf

(上記ページ内を「附則」で検索)

https://kanpou.npb.go.jp/old/20181121/20181121h07394/20181121h073940002f.html

改正の内容

今回の改正では、民法1007条2項、1012~1016条が下記対照表のとおり変更されました。

(新旧対照表)

http://www.moj.go.jp/content/001253528.pdf

民法1007条関係

「(遺言執行者の任務の開始)
 第千七条 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない
2 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容相続人に通知しなければならない。」

民法1007条に第2項が追加され、遺言執行者が職務を開始する場合、相続人に遺言の内容を通知すべきことが定められました。

民法1012条関係

「(遺言執行者の権利義務)
第千十二条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3 第六百四十四条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。」

民法1012条第1項では、遺言執行者の職務が「遺言の内容を実現する」ことであることが明確にされました(必ずしも相続人のために職務をおこなうわけではないということです)。

同2項では、「遺贈」に関して、遺言執行者のみが履行をおこなうことができることとされました。なお実際に遺言で使われることが多い「相続させる」遺言は、「遺産分割方法の指定」であり遺贈ではないとされています(後述する新1014条参照)。

民法1013条関係

「(遺言の執行の妨害行為の禁止)
第千十三条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
3 前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。」

改正前は、1013条は「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない」とのみ定めていました。
1013条違反の行為につき、判例は、遺贈につき無効としていました(最判昭和62年4月23日)。また相続人の債権者が目的不動産の差押をした場合につき、受遺者と債権者は対抗関係に立つとしていました(最判昭和39年3月6日)。
本件改正により1013条に第2項が追加され、1013条1項違反でも善意の第三者は保護されることになりました。また第3項が追加され、本条の規定が相続人の債権者の権利の行使を妨げるものではないことが明確になりました。

民法1014条関係

「(特定財産に関する遺言の執行)
第千十四条 前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
3 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
4 前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。」

1014条に第2項から4項までが追加されました。
第2項では、これまで実務上多用されていた「遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(いわゆる「相続させる旨の遺言」)」を「特定財産承継遺言」として条文上その存在を明確にしました。また遺言執行者が登記等の対抗要件具備行為をすることができることも明確にしました。
第3項では、預貯金について「相続させる遺言」があった場合、遺言執行者が払戻ができることを明確にしました。
第4項は、遺言で特に指定がある場合は上記と異なる取扱を認めたものです。

民法1015条関係

「(遺言執行者の行為の効果)
第千十五条 遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。」

改正前は「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす」という規定ぶりでした。1012条と本条の改正により、遺言執行者の職務は遺言の実現であり、必ずしも相続人のために職務をおこなうものでないことが明確になりました。

民法1016条関係

「(遺言執行者の復任権)
第千十六条 遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
2 前項本文の場合において、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。」

改正前は、遺言執行者が包括的に第三者に任務を負わせるためには「やむをえない事由」が必要とされていました(ただし、特定行為の委任については認められると解されていました(大決昭和2.9.17))。
改正後は、包括的な委任であっても原則として可能であるとされました。

基準時

平成30年法律第72号による改正後の民法附則第2条により、施行日後に開始した相続について適用されるのが原則ですが、附則第8条により以下の例外が定められています。

「(遺言執行者の権利義務等に関する経過措置)
附則第八条 新民法第千七条第二項及び第千十二条の規定は、施行日前に開始した相続に関し、施行日以後に遺言執行者となる者にも、適用する。
2新民法第千十四条第二項から第四項までの規定は、施行日前にされた特定の財産に関する遺言に係る遺言執行者によるその執行については、適用しない。
3施行日前にされた遺言に係る遺言執行者の復任権については、新民法第千十六条の規定にかかわらず、なお従前の例による。」

http://www.moj.go.jp/content/001253488.pdf

(上記ページ内を「附則」で検索)

改正の影響

全体として遺言執行者の職務・権限が明確化され、遺留分請求権が金銭債権化されたことと合わせ、遺言執行者が本来の職務に集中できるようになったといえます。